社交不安症
社交不安症(以前は「社会不安障害」や「社会恐怖」と呼ばれていました)は、注目を集める場面やなじみのない人との会話など、対人状況に過度に恐怖や苦痛を感じてしまう障害です。子どもの場合は、友だちとの間でもそういったことが起きていることが診断の目安です。1
< 社交不安症の子どもが恐怖や苦痛を感じやすい対人状況の例 2 >
- ・ クラスのみんなの前で話す
- ・ 学校で先生に質問する
- ・ 他人の前で歌ったり演奏したりする
- ・ 知らない人に会う
- ・ 会話に参加する
- ・ 学校やお店で助けを求める
- ・ パーティに参加する
- ・ 友だちのいるイベントに参加する
社交不安症の人は、他人からは症状が見つかりにくいときもありますが、上記のような場面では、恐怖、動悸、発汗、震え、集中困難などの症状を常に感じています。1
子どもでは、涙が止まらなくなったり、かんしゃくを起こしたり、固まってしまったり、大人にしがみついたり、ふせってしまったり、全くしゃべることができなくなったりします。2
社交不安症の多くは、6歳~18歳までの間で発症します。特に13歳~18歳の女性では、およそ10人に1人が社交不安症だと言われています。3 児童青年の社交不安症を治療せずに放置すると、大人まで持続してしまうこともあります。2
子どもの場合、「恥ずかしがり屋」「引っ込み思案」というよくある性格の範囲だと思われてしまい、本人の辛さが見逃されてしまうこともあります。
社交不安症に悩まされている子どものうち、約88%は適切な支援サービスにつながっていません。4
<よくある子どもの症状>
以下は、社交不安症の子どもが感じやすい症状です。5
- ・ 授業中に、手を挙げるのがこわい。
- ・ 「他人は自分のことをバカだと思っているに違いない」と思っている。
- ・ 「何かしたら人から絶対に笑われる」と思っている。
- ・ 音楽の発表や体育の実技テストがある日に学校に行きたくない(行きたがらない)。
- ・ レストランやお店でほしいものがあっても、絶対に自分で注文しない。
<社交不安症の治療>
大人の場合は、薬物療法と心理療法の併存治療が推奨されています。6, 7
子どもの場合は、日常的な薬物療法は推奨されておらず、心理学的介入が強く推奨されています。特に、認知行動療法(個別または集団形式)が奨められています。7
子どもの社交不安症に対する認知行動療法では、心理教育、社会的スキル訓練、リラクセーションなどの感情調節方略、認知再構成法、問題解決スキル訓練、段階的エクスポージャー、ペアレントトレーニングから、子どもに合わせて技法をオーダーメイドで実施します。
以下は、研究と臨床によってランク付けされた、児童青年の不安症に有効な心理療法の一覧です。
児童と青年の不安症のための心理療法
ランク1 有効である可能性がかなり高い | • 認知行動療法 • エクスポージャー • モデリング技法 • 親子認知行動療法(同室) • 学業スキル教育(学校での勉強やテストに不安をもつ子どもに) • 認知行動療法+薬物療法 |
ランク2 有効である可能性が高い | • 家族心理教育 • リラクセーション • アサーション訓練 • 注意コントロール訓練 • 親子認知行動療法(別室) • 文化的ストーリーテリング • 催眠療法 • ストレスマネジメント訓練 |
ランク3 有効である可能性が少し高い | • 随伴性マネジメント • グループセラピー |
ランク4 まだ実験段階(有効性が よくわかっていない) | • バイオフィードバック • 親のみへの認知行動療法 • プレイセラピー • 精神力動療法 • 論理情動療法 • 社会的スキル訓練のみ |
ランク5 有効性が疑わしい(有効で ある可能性が低い) | • アセスメント/モニタリングのみ • アタッチメント療法 • 来談者中心療法 • 眼球運動の脱感作と再処理法(EMDR) • ピアペアリング • 心理教育のみ • 人間関係カウンセリング • 教師心理療法 |
ソース:Higa-McMillan et al.(2016)を参考に松原が翻訳8
以下は、不安症によく用いられる心理学的技法のトップ5です。
ソース:Higa-McMillan et al.(2016)を参考に松原が翻訳8
文献ソース
- 1. American Psychiatric Association (2013). Diagnostic statistical manual of mental disorders (5ed). Washington DC: American Psychiatric Association. (日本精神神経学会 高橋三郎・大野 裕・染矢俊幸・神庭重信・尾崎紀夫・三村將・村井俊哉 訳 DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル . 医学書院).
- 2. Spence, S.H. & Rapee, R.M. (2016). The etiology of social anxiety disorder: An evidence-based model. Behavior Research and Therapy, 86, 50-67.
- 3. Merikangas, K.R., He, J., Burstein, M., Swanson, S.A., Avenevoli, S., Cui, L., Benjet, C., Georgiades, K., & Swendesn, J. (2010). Lifetime prevalence of mental disorders in U.S. adolescents: Results from the National Comorbidity Survey Replication–Adolescent Supplement (NCS-A). Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 49, 980-989.
- 4. Merikangas, K.R., He, J., Burstein, M. Swendsen, J., Avenevoli, S., Case, B., Georgiades, K., Heaton, L., Swanson, S., & Olfson, M. (2011). Service utilization for lifetime mental disorders in U.S. adolescents: Results of the National Comorbidity Survey–Adolescent Supplement (NCS-A). Journal of The American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 50, 32-45.
- 5. 石川信一 (2013). 子どもの不安と抑うつに対する認知行動療法: 理論と実践. 金子書房.
- 6. 厚労省ガイドライン https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0491/G0001312
- 7. NICE ガイドライン https://www.nice.org.uk/guidance/cg159
- 8. Higa-McMillan, C.K., Francis, S.E., Rith-Najarian, L., & Chorpita, B.F. (2016). Evidence base update: 50 Years of research on treatment for child and adolescent anxiety. Journal of Clinical Child and Adolescent Psychology, 45, 91-113.